見てください、あの斜面に見える水色の屋根の家は私の家だったかもしれない家です。住んでいたとしたら、路地を曲がってから家の入り口までは急勾配になっていますが、ひとつ手前の家の人が育てているゼラニウムが花を咲かせているのに気を良くした私は持っていた紙袋を小脇に抱えなおして、ごく短い距離を走ってみせます、玄関の郵便受けには何も入っていないことを確認してから紙袋を一度地面に置いて、リュックサックを身体の前にぐるりと回して外側の一番小さなポケットから取り出したキーケースは革製の、この時、地面の紙袋の、白いプラスチック製の持ち手は、クタリと垂れず、鍵の開いたドアノブをひねった手と反対の手で、ピンと立った持ち手をつかんで、つかむためにわずかに屈んだりしたんじゃないかな。

 

玄関に入ればすぐ左手に、備え付けの靴箱はきっと縦に細長くて合計8足は収納することができるんじゃないかと思いますが、棚板同士の間隔が狭く、一番下の段は、おそらくはブーツなどの背が高い靴を入れるために設計されたのであろう、棚板の間隔を少し広めにとってあっても、ドクターマーチンの緑色の8ホール持っているんですけど、これは本当に持っているんですけど、これが靴箱にどうしても収まらないので、いつもたたきに出しっぱなしになってしまうかもしれません。夏場はブーツを履かないですが、サンダルかスニーカーを履きますが、真夏の玄関でもマーチンのブーツがたたきに出ているのを横目に見ながらサンダルに足をいれることになったかもしれません。

 

部屋を決めたばかりの頃、特別気に入っていたベランダからの眺めは、見えるのは単なる住宅地の連なりで、今となっては何が決め手になったかはよく覚えていないのですが、今住んでいるところのベランダと比べると倍近く広いので「うはは、バーベキューできんじゃん!」と引っ越しを手伝ってくれた柴田君に言われたりしたかも、その後に遊びにきた友達たちにも「バーベーキューできんじゃん。」と繰り返し言われたけれど、もちろんバーベキューを出来るほど広くはなくて二人掛けのテーブルがギリギリ収まるくらいじゃないかな、というのは目測で、実際にはバーベキューをしたことも、テーブルも置いてみたことも、その部屋に住んだこともない。

 

それでももう一度ベランダに立てば、坂の上に建っているので少し見下ろす形になって、路地の手前で見上げている私たち。